「自分で考えた物語を、漫画にしてもらいたい」。小説や台本の形でストーリーを持っている人、キャラクターと設定だけがある人、SNS に載せる短い漫画を作りたい人。動機はさまざまですが、いざ依頼しようとすると、何をどこまで用意すればいいのか、何ページで、いくらで、どんな形で納品されるのかが分からず止まってしまいがちです。
検索して出てくる「漫画制作の依頼」の情報は、その多くが企業の広告漫画や PR 漫画を前提にしています。個人がオリジナルのストーリー漫画を数ページ依頼するケースには、そのまま当てはまらない部分が少なくありません。この記事では、個人の依頼者がストーリーものの漫画を依頼するときに決めておくこと、制作の工程とどこで何を確認するか、予算とページ数の考え方、権利と公開の扱いまでを順に整理します。
「漫画を依頼する」には 3 つの形がある
同じ「8 ページの漫画をお願いしたい」でも、依頼者が何を持ち込むかによってクリエイターの作業量はまったく違います。最初に、自分の依頼がどの形なのかをはっきりさせておきましょう。
1. 原作・ネームを持ち込み、作画を依頼する
コマ割りとセリフ配置まで自分で描いたネーム(漫画の設計図にあたる下書き)を渡し、作画だけを依頼する形です。ストーリーの組み立てはすべて依頼者側で完了しているため、クリエイターの作業は「絵にする」部分に集中します。作業量がいちばん小さく、ページ単価も下がる傾向があります。ただし、ネームの読みやすさや構図の判断はクリエイターに委ねる余地を残したほうが、仕上がりは良くなります。
2. プロット(あらすじ・台本)を持ち込み、ネームから依頼する
物語の流れは文章で用意してあり、コマ割りや演出はクリエイターに任せる形です。「どのセリフをどのコマに置くか」「見せ場をどう見開きで使うか」といった漫画としての設計はクリエイターの仕事になります。個人の依頼ではこの形がもっとも多く、ページ単価にはネーム制作の分が含まれます。
3. 設定やテーマだけを渡し、丸ごと依頼する
「こういうキャラクターで、こういう雰囲気の短編を」と方向性だけを伝え、話作りから任せる形です。作業量は最大で、クリエイターによっては原作込みの依頼を受けていない場合もあります。この形で頼むなら、料金表に「原作込み」「シナリオ制作」といった項目があるクリエイターを探すか、事前に相談するのが前提です。
3 つのどれにあたるかで、金額も納期も、確認すべき工程も変わります。依頼の最初の一文で「ネームはこちらで用意します」「プロットはあります。ネームからお願いしたいです」と書くだけで、返ってくる見積もりの精度が大きく上がります。
依頼前に決めておくこと
ページ数だけを伝えて見積もりを求めると、クリエイター側は「モノクロ?カラー?」「サイズは?」「どこに載せる?」と聞き返さざるを得ません。次の項目を先に決めて、依頼文にまとめておきましょう。
ページ数と、モノクロかカラーか
ページ数は物語の量で決まりますが、目安として、SNS 向けの短い話は 1〜4 ページ、同人誌の短編は 8〜24 ページ程度が多く見られます。カラーはモノクロより単価が上がり、公開されている相場では 1 ページあたり 2,000〜5,000 円程度の加算が一般的です。SNS 用の短い漫画はカラー、同人誌はモノクロ、という分け方が一つの基準になります。
用途と公開先
同人誌として印刷するのか、Web や SNS に投稿するのか、同人イベントで頒布するのか。用途によって原稿サイズ・解像度・納品形式が決まり、権利の取り決めも変わります。「まず SNS に載せて、反応が良ければ同人誌にする」なら、その両方を最初に伝えておくと後から作り直す手間が省けます。
判型と原稿サイズ
印刷する場合は、仕上がりサイズと原稿サイズを最初に決めておく必要があります。同人誌でよく使われるのは B5(182×257mm)と A5(148×210mm)で、印刷用の原稿は仕上がりより天地左右 3〜5mm ずつ大きい「塗り足し」を含めて作ります。解像度は、モノクロ 2 階調なら 600dpi、グレースケールなら 350 または 600dpi、カラーなら 350dpi が標準です(印刷所によって 300〜400dpi の指定があります)。入稿先の規定を必ず確認してください。
使う印刷所が決まっているなら、その印刷所の原稿ガイドの URL をクリエイターに渡すのがいちばん確実です。Web 公開のみなら、縦長の画面で読まれる前提で、原稿サイズはクリエイターと相談して決めます。
納品形式
依頼者が受け取るファイルの形式です。印刷入稿するなら PSD や PDF、後から自分でセリフを直したいなら文字レイヤーを分けた PSD や CLIP STUDIO PAINT 形式(.clip)、Web 公開だけなら PNG や JPEG で足りることが多いです。「レイヤーを分けた作業ファイルごと欲しい」のか「完成画像だけでよい」のかは金額にも関わるので、依頼時に明記しましょう。
トーン・背景・仕上げの程度
背景をどの程度描き込むか、トーンをどこまで貼るか、効果線や集中線をどう使うかで作業量が変わります。参考にしたい作風の作品があれば「この作品くらいの背景の密度で」と伝えると、齟齬が減ります。
制作の工程と、どこで何を確認するか
漫画の制作は、一般的に次の工程で進みます。プロット(文章での話の流れ)→ ネーム(コマ割り・構図・セリフ配置の下書き)→ 下描き → ペン入れ(線を清書する)→ トーン・仕上げ(ベタ、トーン、効果、修正加工)。カラー漫画では仕上げに着彩が入ります。
GreenHorn(グリーンホーン)では、この工程を成約時に区切りとして合意し、工程ごとにクリエイターが提出物を出して依頼者が確認する流れになっています。どの工程で何を確認すべきかを押さえておくと、修正の手戻りが最小になります。
ネームの段階で確認すること(最重要)
ストーリーものの漫画では、ネームの確認がすべての工程の中でいちばん重要です。話の流れ、コマ割り、セリフの内容と量、見せ場の配置、ページをめくったときの構成は、すべてここで決まります。ペン入れが終わってから「この場面はもう 1 ページ使ってほしい」と言うと、複数ページを描き直すことになります。
ネームは絵としては荒く、読み慣れないと判断しづらいものです。それでも「セリフは自分の意図どおりか」「話の順番と場面転換に違和感はないか」「キャラクターの表情の方向性は合っているか」の 3 点は、この段階で必ず読み込んで返答してください。ネームの段階での修正は比較的軽い作業で済みますが、後の工程では作り直しに近くなります。
下描き・ペン入れの段階で確認すること
キャラクターの顔や体型の細部、服装や小物、背景の形。線が確定するのはここまでなので、形についての指摘はペン入れ前が最後の機会です。一方で、この段階での構図やコマ割りの変更はネームからのやり直しにあたるため、修正ではなく相談として切り出すのが筋です。
トーン・仕上げの段階で確認すること
影の濃さ、トーンの質感、効果の強さ、セリフの文字の大きさや誤字。印刷前提なら、文字が塗り足しに近すぎないかも確認します。ここで直せるのは表面的な部分に限られ、「表情を変えたい」といった指示は前の工程に戻る作業になります。
各工程で修正をお願いするときは、「どのページのどのコマの、何を、どうしたいか」を具体的に伝えることが大切です。GreenHorn の修正指示機能では、提出された画像の上にピンを立てたりフリーハンドで書き込んだりして、コマ単位で指示を残せます。伝え方の詳しいコツはイラスト・漫画の修正指示(リテイク)の伝え方にまとめています。
予算とページ数の考え方
以下は 2026 年 9 月時点で公開されている情報をもとにした目安です。数値は広告漫画向けの公開情報が中心で、個人依頼では条件によって上下します。
公開されている漫画のページ単価は、個人のクリエイターへの直接依頼でモノクロ 8,000〜1 万 5,000 円、カラー 1 万 2,000〜2 万円程度が一つの目安です。クラウドソーシング経由ではやや低く、制作会社では高くなります。個人が依頼する場合、この単価を動かす要因は主に 3 つです。
- ネームを持ち込むか、ネームから任せるか: 作画のみの依頼はページ単価が下がる傾向があり、ネームから任せる場合はその分が含まれます
- モノクロかカラーか: カラー化は 1 ページあたり 2,000〜5,000 円程度の加算が一般的です
- 背景やトーンの密度: 背景の多いページ、人物が多く登場するページは単価が上がることがあります
たとえば、自分で書いた短編の原作をもとにモノクロ 8 ページを個人クリエイターに依頼するなら 6 万〜12 万円程度、SNS 向けのフルカラー 4 ページをネームから任せるなら 5 万〜8 万円程度が、一つの目安になります。ページ数が少なくても、カラーとネーム制作が含まれると 1 ページあたりの単価は上がります。
予算が先に決まっているなら、「予算 5 万円で、モノクロで何ページくらいできますか」と逆に聞くのも有効です。ページ数を減らす、背景を簡素にする、ネームを自分で用意する、といった調整でクリエイターから提案をもらえます。種類別・工程別の相場の全体像はイラスト・漫画の依頼相場ガイドで詳しく整理しています。
免責: 本記事の内容は公開されている各サービス・記事の情報をもとにした一般的な目安であり、実際のルールや料金はクリエイター・内容・用途・納期・修正回数により異なります。必ず依頼前にクリエイター本人と条件をご確認ください。
権利と公開の取り決め
ストーリーものの漫画は、一枚絵の依頼より権利の整理が複雑になります。原作は依頼者のもの、作画はクリエイターのもの、という 2 つの創作が重なるためです。次の点は成約前に文章で決めておきましょう。
著作権は、原則として描いた人にある
代金を支払って納品を受けても、漫画(作画部分)の著作権は自動的には依頼者へ移りません。原則として制作したクリエイターに帰属し、依頼者は合意した範囲で利用できる、というのが基本です。原作やキャラクター設定を依頼者が用意した場合、その原作の権利は依頼者にありますが、それだけで漫画全体を自由に扱えるわけではない点に注意してください。
「利用許諾」と「著作権譲渡」は別のもの
多くの依頼は、著作権はクリエイターに残したまま、依頼者が「同人誌として頒布する」「SNS に投稿する」といった決めた範囲で使う利用許諾の形になります。将来、商業出版や他媒体への展開まで見据えて漫画全体の権利を持ちたいなら、著作権譲渡として明確に合意し、料金もそれに見合った形にする必要があります。譲渡の場合でも、作者名の表示に関する権利や、作品を勝手に改変されない権利(著作者人格権)はクリエイターに残ります。セリフの差し替えや絵の一部改変を依頼者側で行いたいなら、その点も事前に合意しておくと安全です。
決めておく項目
- 公開先と範囲: 同人誌の頒布、Web・SNS への投稿、同人イベントでの販売、電子書籍化など
- 二次利用: グッズ化、別媒体への転載、続編での流用の可否
- クレジット表記: 作画クリエイターの名前をどう表記するか、依頼者名(原作)をどう表記するか
- クリエイター側の利用: 実績としてポートフォリオや SNS に掲載してよいか、いつから掲載してよいか
- 商業化した場合: 商業出版や書籍化の話が来た場合に、あらためて条件を協議するかどうか
GreenHorn では、成約フォーマットに制作内容・金額・納期・権利関係を項目ごとに整理し、双方が同意して成約を確定します。確定後に条件を変えたいときは追加合意として双方の合意が必要になるため、公開先や二次利用の範囲は確定前に書き切っておくのが基本です。
ストーリーものを描けるクリエイターの探し方
一枚絵が上手いことと、漫画として物語を読ませられることは、別の技術です。ストーリーものを依頼するなら、次の点で探すと失敗が減ります。
- 漫画の実績があるか: ポートフォリオに複数ページの漫画があるか、ネームからの制作経験があるかを見ます。1 ページ漫画と 16 ページの短編では求められる力が違います
- 作風がストーリーに合うか: シリアスな話をギャグ調の絵で描いてもらうとちぐはぐになります。描きたい話の雰囲気に近い作品を描いているかを確認します
- 料金表に漫画の項目があるか: 「漫画 1 ページ〇円」「ネーム制作込み」「原作込み」など、漫画を受け付けているかが料金表で分かります
- 修正や工程の進め方が合うか: ネーム確認の回数や、途中確認の頻度についての記載があれば、進め方の相性が分かります
GreenHorn のクリエイター検索では、作品の種類やタグで漫画を描くクリエイターを絞り込めます。逆に、条件を書いて募集し、クリエイター側から提案をもらう依頼掲載の使い方もあります。
よくある質問
Q. 小説をそのまま渡して漫画にしてもらえますか?
可能ですが、小説の文章量と漫画のページ数は一致しません。数千字の短編でも 8〜16 ページになることは珍しくなく、逆に長編を数ページに収めるには大幅な取捨選択が必要です。「この小説を 8 ページに」という依頼なら、どの場面を残すかをクリエイターと相談する工程(プロットの整理)を最初に置くとスムーズです。
Q. ネームを自分で描いたことがなくても、用意すべきですか?
無理に用意する必要はありません。棒人間と吹き出しだけの簡単なコマ割り案でも、クリエイターにとっては意図が伝わる貴重な材料になります。一方で、コマ割りや演出はクリエイターの得意分野なので、プロットだけ渡してネームから任せるほうが結果的に良い漫画になることも多いです。
Q. 途中で話を変えたくなったら、どうすればいいですか?
工程が進むほど変更のコストは大きくなります。ネームの段階なら比較的軽い修正で済みますが、ペン入れ以降で話の流れを変えるのは作り直しに近く、追加料金や納期の延長が必要になるのが自然です。変更したい場合は「修正」ではなく「相談」として切り出し、追加合意で条件を決め直すのが健全です。
Q. 完成した漫画を同人誌にして売ってもいいですか?
事前に「同人誌として頒布する」ことを合意していれば問題ありません。合意していないまま販売すると、利用許諾の範囲を超えるおそれがあります。頒布の可否、部数や価格に制限があるか、クリエイターの名前をどう表記するかは、依頼時に必ず決めておきましょう。
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